1. パレスチナ人に対する抑圧は次第に自動化が進んでおり、テクノロジー企業は被占領地パレスチナが軍事技術にとって他に類を見ない実験場となっている状況から利益を得つつ、大量のデータ収集と監視を統合する軍民両用型インフラを提供している。米国の大手テクノロジー企業がイスラエルに子会社や研究開発センターを設立したことで、イスラエルの安全保障上の必要性の主張は、監視・監禁関連サービスにおける空前の発展を促してきた。これには閉回路テレビ(CCTV)ネットワーク、生体認証監視、先端技術を用いた検問所ネットワーク、「スマートウォール」、ドローン監視から、現場の軍事要員を支援するクラウドコンピューティング、AI、データ分析までが含まれる。

37. イスラエルのテクノロジー企業は多くの場合、軍事インフラや軍事戦略に由来しており、イスラエル軍「八二〇〇部隊」[サイバー攻撃・防御を扱う情報収集精鋭部隊]の元メンバーによって設立された「NSOグループ」はその一例である。スマートフォンを密かに監視するために設計された同社のスパイウェア「Pegasus」は、パレスチナ人活動家に対して使用されてきた他、各国の指導者、ジャーナリスト、人権活動家らの監視を目的としてグローバルにライセンス供与されてきた。NSOグループの監視技術は、防衛輸出管理法に基づく「スパイウェア外交」を可能にするとともに、国家による違法行為の免責を強化している。

38. IBMは一九七二年からイスラエルで事業を展開しており、特に八二〇〇部隊の軍事・情報要員を対象に、テクノロジー業界やスタートアップ企業向けの人材育成を行なってきた。二〇一九年以降、IBMイスラエルは人口・移民局の中核データベースの運用と更新を担当し、パレスチナ人の生体認証データの収集・保存および政府による利用を可能にし、イスラエルの差別的な許可制度を支えている。IBMの前にはヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が同データベースの管理を行なっていたが、そのイスラエル子会社は現在もサーバーを提供している。ヒューレット・パッカード(HP Inc.)は長年にわたり、イスラエル占領地政府活動調整官組織(COGAT)や刑務所当局、警察などに技術提供を行ない、イスラエルのアパルトヘイト体制を支援してきた。二〇一五年の分割(HPEとHPInc.)以降、不透明な事業構造により、イスラエルに残る両社の子会社七社の役割は不明瞭となっている。

39. マイクロソフトは一九九一年からイスラエルで事業を展開しており、米国外では最大の拠点を設置している。同社の技術は、入植地を含む刑務所当局、警察、大学、学校などに組み込まれている。二〇〇三年以降、マイクロソフトはイスラエル軍に対してシステムや民間技術の統合を進める一方、イスラエルのサイバーセキュリティおよび監視関連のスタートアップ企業の買収も行なっている。

40. イスラエルのアパルトヘイト体制、軍事システムおよび人口管理システムが生み出すデータ量が増加する中、クラウドストレージとコンピューティングへの依存度が高まっている。二〇二一年、イスラエルは基幹技術インフラを提供するため、アルファベット社(グーグル)とアマゾン・ドットコムに一二億ドルの契約(「プロジェクト・ニンバス」)を発注した。この契約は主にイスラエル国防省の予算によって賄われている。

41. マイクロソフト、アルファベット、アマゾンは、イスラエルに対し事実上、政府全体にわたるクラウドおよびAI技術へのアクセスを許可しており、それによりイスラエルはデータ処理、意思決定、監視・分析能力を強化している。二〇二三年一〇月、イスラエル国内の軍事クラウドが過負荷状態に陥った際には、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure(アジュール)」と「プロジェクト・ニンバス」のコンソーシアムが支援に乗り出し、不可欠なクラウドおよびAIインフラを提供した。イスラエルに設置された彼らのサーバーは、データ主権を確保すると同時に責任追及の防波堤ともなっており、制限や監視がほとんどない有利な契約条件下で提供されている。二〇二四年七月、イスラエル軍のある少将はこれらの企業名を挙げ、クラウド技術はあらゆる意味で武器であると述べた。

42. イスラエル軍は「Lavender」「Gospel」「Where’s Daddy?」といったAIシステムを開発し、データ処理や標的リストの作成に活用している。これにより現代戦の様相が一変するとともに、AIの軍民両用性が如実に示されている。パランティア・テクノロジーズは二〇二三年一〇月以前からイスラエルと技術協力を行なっていたが、同月以降、イスラエル軍への支援を拡大した。同社が警察活動向けの自動予測技術、軍事ソフトウェアの迅速かつ大規模な構築・展開を支える中核的防衛インフラ、さらには自動意思決定のためのリアルタイム戦場データ統合を可能にするAIプラットフォームを提供していることを示す合理的な根拠がある。二〇二四年一月、パランティアはイスラエルとの新たな戦略的パートナーシップを発表し、「連帯」の意を表してテルアビブで取締役会を開催した。二〇二五年四月、パランティアの最高経営責任者(CEO)は、同社がガザ地区でパレスチナ人を殺害したとの非難に対し「ほとんどがテロリストであり、それは事実だ」と応じた。これらの出来事はいずれも、イスラエルの違法な武力行使に対する経営陣の認識と意図を示すものであり、かつ、そうした行為の防止や関与撤回を怠っていることを示している。

43. 「スタートアップ国家」としてのイスラエルは、9・11以降の世界的な安全保障強化の波に乗り、ジェノサイドの期間中に大きな躍進を遂げた。イスラエルは国民一人当たりのスタートアップ企業数で世界一であり、二〇二四年には軍事技術関連のスタートアップが143%増加した。ジェノサイド期間中、イスラエルの輸出の64%を技術分野が占めている。

パレスチナ被占領地域における企業体の法的責任を規律する法的枠組の概観(Annex: Overview of the Legal Framework Governing the Legal Responsibility of Corporate Entities in the Occupied Palestinian Territory)(アルバネーゼ報告書附属)

1. はじめに(Introduction)

  1. 本付属書は、パレスチナ被占領地域(occupied Palestinian territory, oPt)に関与する企業セクターに広く適用される国際法上の法的枠組みを提示するものである。本付属書の目的は、主報告書に示された法的概念および事実認定の解釈・適用について指針を与えることにある。本付属書は、この領域における国際法を網羅的に展開するものではなく、企業の責任、とりわけ企業体がパレスチナ人をその土地から追放し、国際法に反して不法な入植地(コロニー)によって置き換えることに関与する場合に適用される広範な原則を提示するものである。企業体は、搾取的、虐待的、さらには犯罪的な行為について責任を問われる危険を負っている。2023年10月以前から、パレスチナ被占領地域における違反に対する企業の責任および犯罪的共犯関与は確かに確認可能であったが、その後の事実上および法的な展開は、企業を「不法な占領」および「ジェノサイド」に関与させる可能性がある。

2. 国際法における企業責任(Corporate responsibility under international law)

2. 人権、国際人道法、そして国際法上の犯罪に対する企業の責任は、国内・地域・国際レベルの法的文書によって規律されている。


3. ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGPs)は、国際レベルにおいて企業行動を規律する規範的枠組みを構成する。UNGPs は、国家および企業体が国際人権法の既存の義務を遵守するために何を行わねばならないかを示すものであり、すでに各国の法制度および政策に重大な影響を及ぼしている。実際、UNGPs は、企業責任が争点となる訴訟において、法的に意味のある事実を確定するために企業行動を評価する「規範的レンズ(normative lens)」を提供する。

UNGPs は、不利益な人権影響を未然に防ぐこと、そして企業の行為が

場合に救済措置が確保されることの双方を扱う。

とりわけ、紛争、占領、構造的脆弱性といった状況――そして国内での国際人権法の執行が弱体化しているか、損なわれている状況――では、国際的監視を必要とするため、UNGPs による規範的要求は引き上げられることが極めて重要である。


4. 国際法の他の領域も、企業に対し特定の法的義務を課している。特に、国際人道法は、武力紛争に関与する非国家主体にも拘束力がある。また、国際刑事法の下では、企業幹部といった個人、そして近年では企業体そのものも、刑事責任を問われうる。人権侵害および国際犯罪に対する企業責任の執行について、第一次的な管轄権をもつのは国内裁判所である。

2.1 主要な義務主体としての国家(States as the primary duty-bearers)

  1. 国際法は、国家が主要な義務主体(primary duty-bearers)として、企業体が国際法に違反せず、人権を尊重することを確保する役割を与えている。これは、国家が人権を尊重し(respect)、保護し(protect)、充足する(fulfil)という義務の一部を構成するものである。国際人権法の下では、UNGPs によって確認されているとおり、国家は、適切な措置を講じて私人(private actors)による侵害を防止し、調査し、処罰し、救済することに失敗した場合、人権義務違反に問われうる。また国家は、一般的な国境を越える人権義務(extraterritorial human rights obligations)に従い、自国領域の外で行われる企業活動についても、規制と監督を及ぼす義務を負っている。

  1. さらに、国家責任法(rules on State responsibility)の下では、私人による人権侵害であっても、以下の場合には国家に帰属(attribution)される:

これに応じて UNGPs は、国家に対し、国家が所有し、国家により管理され、または国家から実質的支援を受けている企業体による人権侵害から人々を保護するために、追加的措置を取ることを要求している。

<aside> 💡 📜自由権規約2条1項:締約国の義務(ICCPR Article 2(1) : Obligations of States Parties)

  1. この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、 言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、 出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。
  1. Each State Party to the present Covenant undertakes to respect and to ensure to all individuals within its territory and subject to its jurisdiction the rights recognized in the present Covenant, without distinction of any kind, such as race, colour, sex, language, religion, political or other opinion, national or social origin, property, birth or other status.

</aside>

<aside> 📝

人権を保護する国家の義務:Protect

🗞️ ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のためにA/HRC/17/31和訳

A. 基盤となる原則

B.運用上の原則

2.2 企業体の責任(Responsibilities of corporate entities)

  1. UNGPs は、すべての企業体に適用される。「その規模、セクター、事業運営の状況、所有形態、構造にかかわらず」適用される。

企業体の人権侵害および国際法上の犯罪に対する責任は、国家の責任とは独立して存在し、また、国家が人権尊重を確保するために措置を取るか否かとも無関係である。

したがって、企業体は、自らが操業する国家が人権を尊重しない場合であっても、人権を尊重しなければならない。また、企業が操業する国家の国内法に従っていたとしても、企業体は責任を問われ得る。

言い換えれば、国内法の遵守は、企業責任・企業の法的責任を免除するものではない(defense にならない)。


  1. 企業体は、人権法を侵害しないこと、そして自らの活動または他者とのビジネス関係によって生じた人権侵害に対応することの双方を行う義務を負う。

これを達成するために、UNGPs は「関与の連続体(continuum of involvement)」と、それに対応する責任を定めている。

この連続体は、企業構造や経済的バリューチェーンの複雑性、そして、特定の人権影響に対する企業の関与の性質が時間の経過とともに変化しうる事実を反映している。企業が適切な行動をとらなければ、その企業の位置づけは関与の連続体の上方(より重い責任)へと移行し得る。

企業体の活動や関係は、一つのエコシステムの一部として理解され得る。このエコシステムは、加害(perpetrating)、助長(facilitating)、可能化(enabling)、利得(profiting) を通して人権に悪影響を与え、その結果として人権侵害を生じさせる可能性がある。


  1. 企業体の責任は、主としてそのサプライチェーン/バリューチェーンにおける活動または関係が、以下のいずれに該当するかによって決まる:

(a) 企業自身の活動が、人権侵害が発生し得るために不可欠(essential)であるために、人権侵害を**「発生させている(causing)」**場合。

(b) 企業自身の活動が、直接または外部の主体(政府、企業、その他)を通じて、人権侵害に**「寄与している(contributing)」**場合。これには、企業体の行為と結果としての侵害との間に因果関係(causal link)が認められるすべての活動・関係が含まれる。企業の行為と結果としての侵害との因果性は、企業が侵害を助長したり(facilitated)、可能にしたり(enabled)、第三者による国際人権法違反を招くような強いインセンティブ(strong incentives)を与えたり、第三者と並行して活動し、累積的な影響(cumulative impacts)を引き起こす場合にも認められる。

(c) 企業の操業・製品・サービス・企業関係によって、人権侵害と**「直接関連した(directly linked)」**場合。この場合、企業自身が侵害に寄与している必要はない。


  1. UNGPs は企業体に対し、人権侵害に巻き込まれないよう、定期的な人権デュー・ディリジェンス(HRDD)を実施し、懸念を特定し、自らの行動を調整することを求めている。

さらに、武力紛争、占領、その他広範な暴力状況においては、企業体は紛争期間を通じて強化された(heightened)人権デュー・ディリジェンスを行うことが期待される。


  1. 強化されたプロセス(heightened HRDD)の一環として ―― これは パレスチナ被占領地域において極めて不可欠である ―― 企業体は、自らの行為または不作為に関して以下の三つの問いを自問しなければならない:

Q1 企業体の活動・製品・サービスと、実際の人権への負の影響、または潜在的な負の人権影響、あるいは紛争との関連はあるか?

Q2 もしあるなら、企業体の活動はその影響のリスクを増大させているか?

Q3 さらに、その場合、企業体の活動それ自体が、その影響を発生させる(cause = 発生させた)のに十分なものであるか?

Q1 Q2 Q3 評価
Yes ⭕️ No ✖︎ No ✖︎ 🟡 直接関連した(directly linked)
Yes ⭕️ Yes ⭕️ No ✖︎ 🟠 寄与した(contribute)
Yes ⭕️ Yes ⭕️ Yes ⭕️ 🔴 発生させた(cause)

  1. これらの問いに答えるにあたり、企業体は次の点を考慮しなければならない:

  1. 以上の評価に基づき、企業体には以下の法的責任が課される:

(a) 🔴 企業体が人権侵害を発生させた場合(cause)(=前記3つの質問すべてにYes)

企業体は、当該行為を停止し(cease)、発生させた損害に対して救済および賠償(remedies and reparations)を提供する責任を負う。

(b) 🟠 企業体が人権侵害に寄与した場合(contribute)(=質問1および2にYes、3にNo)

企業体には次の責任がある:

(c) 🟡 企業体が人権侵害に直接関連した場合(directly linked)(=質問1のみにYes)

企業体は、レバレッジ(影響力)を行使し、必要に応じて共同で、人権への影響を防止または軽減することが求められる。レバレッジが効果を示さない場合、企業体は関係の終了(termination)を検討しなければならない。さらに、人的デュー・ディリジェンス(HRDD)を行っていても、リスクの高い状況から離脱しない(disengageしない)ことは、企業体の責任を増加させる。

<aside> 📝

</aside>


  1. この枠組において極めて重要であり、しばしば誤解されるのが次の点である。すなわち、企業行為を評価する際に決定的に重要なのは、企業の行為が現在および潜在的な人権保護、そして紛争影響下の状況そのものに及ぼす実質的影響(material impact) であり、企業がどれほどデュー・ディリジェンスを行ったか、あるいはどれほど過失であったかではないということである。

言い換えれば、デュー・ディリジェンスを行ったからといって、企業体の責任が免除されるわけではない。

重要なのは、実際の人権影響、リスクを回避・対処するために企業が取った具体的行動である。


  1. したがって、問題となる人権侵害を正確に特定することが決定的に重要である。

企業体は、特定の人権侵害が、より構造的・体系的な国際法違反の構成要素をなしている可能性を考慮しなければならない。